カテゴリ
News! (90)
銃器 (60)
映画 (19)
音楽 (16)
言論 (32)
民生 (3)
阮朝 (2)
人物 (33)
式典 (3)
BB/歩兵 (29)
ND/空挺 (47)
KB/騎兵 (8)
PB/砲兵 (1)
TT/通信 (3)
QV/輸送 (2)
HQ/海軍 (9)
KQ/空軍 (10)
QY/衛生 (2)
QC/軍警 (6)
軍犬隊 (1)
FULRO (11)
デガ (25)
モン族 (15)
ヌン族 (9)
本土軍 (2)
コマンド (10)
SDECE (3)
1914-1918 (2)
1918-1939 (8)
1939-1945 (22)
1945-1954 (88)
1954-1975 (463)
1975-1989 (19)

2014年01月25日

南ベトナム海兵大隊戦記

※2022年1月2日更新


ちょうど2年前の話ですが、『南ベトナム海兵大隊戦記』の"総集編"を見る機会がありました。

『南ベトナム海兵大隊戦記』とは、日本テレビの『ノンフィクション劇場』で1965年5月9日に放映された、牛山純一製作のドキュメンタリー番組です。
ベトナム戦争中の1965年、ビンディン省でベトコン掃討戦に当たる南ベトナム海兵隊(TQLC)第2大隊第2中隊に密着取材したもので、しかもカメラマンの一人はあの石川文洋という、僕ら歴史・ミリタリーマニアにとっては大変貴重な映像資料でもあります。
“1965 年2月下旬から4月中旬まで,牛山と佐々木久雄,森正博,カメラマンの木村明は南ベトナムを取材。
現地滞在中のカメラマン石川文洋を加えて,当時中部ビンデン省で掃討作戦を行っていた南ベトナム政府軍の海兵大隊に従軍した。”
(NHK放送文化研究所 『放送研究と調査』 2012年5月号より)
南ベトナム海兵大隊戦記
▲読売新聞 昭和40年5月9日 テレビ欄


しかしこの番組は、それ以外の分野でも伝説的な番組として知られています。
それは1965年の第1部の放送直後、当時の自民党政権から日テレに圧力がかかり、続編が放送中止(自主規制)に追いやられたという曰くがあるからです。
政府が民放の一番組を潰しにかかるという異常な事態に巻き込まれた事から、50年近く経った今日でも"権力とジャーナリズム"の問題について研究の対象となっているのが、この『南ベトナム海兵大隊戦記』です。

2012年1月、その『南ベトナム海兵大隊戦記』の上映会が東京大学で行われると聞いた僕は、友人と一緒にこの会(丹羽美之研究室TVアーカイブ・プロジェクト第1回「みんなでテレビを見る会」)に参加してきました。

まず東大に乗り込むという事にウキウキ(笑)
僕にとって東大と言えば、

南ベトナム海兵大隊戦記 
これとか

南ベトナム海兵大隊戦記
これとか

南ベトナム海兵大隊戦記
これとか。

近くの上野にはしょっちゅう行ってますが、本郷に来たのは初めてだったので、観光客みたいに赤門や安田講堂でシャメ撮ってはしゃぎました。
そして安田講堂の隣の工学部2号館という建物の中へ。
ウェブ上の募集ページにははっきり日時が書いてありましたが、いざ来てみるとどこにも案内が貼ってないし、放課後で誰も人が居ないしで、すっげぇ不安になります。
そんな感じで「いいのかここで?」と恐る恐る9階まで上がっていくと、ようやく会場の教室にたどり着く事ができました。

実は、『南ベトナム海兵大隊戦記』という作品を知ったの自体この時が初めてだったので、何の予備知識も無しで見に行ったのですが、東大の先生や、映像を提供した川崎市市民ミュージアムの方のお話はとても興味深かったです。
その時のお話や頂いた資料から、この作品はオリジナルと総集編が存在し、また登場人物のその後を追跡調査した特番もあった事を知りました。

ノンフィクション劇場『ベトナム海兵大隊戦記 第 1 部』 (1965年5月9日放映 25 分)
65年にテレビ放映されたオリジナル版。当時のタイトルは"南ベトナム"ではなく、"ベトナム海兵大隊"だったんですね。
放映されたのはこの第1部のみで、それっきり一度も再放送されなかった、まさに伝説の作品。残念ながらフィルムは現存せず。
つまり、ベトコン容疑者の処刑場面等、後に総集編でカットされるシーンを見た事がある人は、当時リアルタイムでテレビを見ていた人と日テレ関係者のみという事になります。
(不思議な事に、当時の放映は見ていないのにもかかわらず、「斬首シーンを見た」という人は時々居ます。当時ビデオデッキなんて一般家庭には無いので、はたして単なる思い違いなのか、実は再放送があったのか。プチ都市伝説ですね。)


『南ベトナム海兵大隊戦記 総集編』 (1971年 50 分) 
1971年"映像記録の国際シンポジウム"で公開。
1995年NHK衛生第2で放映。
放送が中止された第2~3部の素材(3部作合計75分になるはずだった)を加え、残された映像を使って牛山プロデューサーが後に再編集した作品。第1部で"残虐"とされた箇所はカットされている。
現存する唯一のフィルムで、今回上映されたのはこれ。(素材となった第1部および第2~3部分フィルムはその後行方不明)


『テレビ放送三十五年 怒り、悲しみ、そして喜び』 (1988年8月20日放映)
『南ベトナム海兵大隊戦記』の主人公として描かれたグエン大尉や、射殺された少年の家族のその後を戦後(1988年)に追跡取材した番組。
非常に気になりますが、僕はまだ視聴がかなっていません。
番組中に挿入された『南ベトナム海兵大隊戦記(総集編)』の一部分はニコニコ動画にアップされています。
(削除済み)

後になって、この動画アップした人は僕の知り合いだった事が判明w
どういう内容だったか伺ったところ、グエン大尉は無事戦争を生き抜き、戦後再教育キャンプを経て、取材当時はエビ漁師をされていたそうです。
お孫さんにも囲まれて幸せそうだったとか。良かった・・・


なお、グエン大尉のフルネームは長らく確認できなかったのですが、この番組をはじめ牛山純一作品を研究されている川崎市市民ミュージアムの濱崎好治氏に伺ったところ、下の名前(呼びかけの名)は「"ハイ"らしい」との事でした。
さらに南ベトナム軍のほとんどの部隊、中隊長以上の将校がデータベース化されているすっげぇサイト"Mekong Republic"で確認したところ、1965年当時の第2海兵大隊第2中隊長は"Đại úy Nguyễn Văn Hay"。こりゃ間違いないですね。
という訳で、グエン大尉のフルネームはグエン・バン・ハイ大尉だったと確認できました。
(ベトナム人の名前は下の名前だけで呼ぶのが普通なので、本来はハイ大尉と呼ぶべきですが)

南ベトナム海兵大隊戦記
※追記:石川文洋の本に普通にフルネーム載ってました。


また、この作品を軍装マニア視点で見ると、(上のビデオには無いシーンですが)あるTQLC兵士の被っているベレー帽の帽章が珍しい物でした。
本来、1965年ですとTQLCの兵科士官ベレー章は、お馴染みの鷲がデザインされたタイプ(4thモデル)が使われているはずなのですが、『南ベトナム海兵大隊戦記(総集編)』では旧式の兵科士官1stモデルっぽいベレー章が使われていたんです。
普通の1stモデルは台布が円形なのに対し、作中に登場するベレー章は台布がシールド型でした。
※1965年当時は、所謂1stモデルで正しかったです。



南ベトナム海兵大隊戦記
兵科士官1stモデル。使われたのは第1次インドシナ戦争時代からジェム政権初期(50年代)までと言われています。
※正しくは1956~1966年頃に使用されたタイプ。左が中級下士官(中士)以上、右が下級下士官(一等下士)以下用

南ベトナム海兵大隊戦記
▲『南ベトナム海兵大隊戦記(総集編)』に写っているベレー章。(記憶を基に再現)
デザインは1stモデルっぽいですが、シールド型というのはこれ一度しか見たこと無いです。
また、このデザインが1965年の時点で使われていたというのも驚き。謎ですね・・・


その他では、兵士が持ってる銃の中に、スコープが付いたM1903A4っぽい狙撃銃が写っていたのが印象に残っています。
映像が手元に無いので確認できないのが残念。

あと、面白かったのが60mm迫撃砲の掩体(?)。
夜営地での応急掩体なので大それた物は作らないというのは分かるんですが、そこに映っていたのは図のように地面を20cmくらい掘っただけのもの。
身体を隠せるような盛り土は無く、ただの段差です。

南ベトナム海兵大隊戦記

いったいどういう意味があるんだろうと悩みましたが、Youtubeで他の動画見てたらすぐに答えがわかりました。
普通、迫撃砲の射手は砲の両サイドに立ち膝になってスタンバイしますが、立ち膝ってけっこう疲れますよね。
なので、ちょっと地面を掘り下げて、その段差に腰掛けてまったり撃つ為の現場のアイディアだと思われます(笑)
実際当時の動画見ると、敵が迫っていて照準度外視で弾幕を張る必要がある場合は、射手はウンコ座りになって次から次へと砲弾を流し込んでいく様が見て取れます。
そういう意味では、この段差は"掩体壕"とは呼べませんが、れっきとした迫撃砲陣地なのかも知れません。どうぞお試しあれ(笑)

以上が、『南ベトナム海兵大隊戦記(総集編)』を見て、その時に気付いた点です。
一度じゃ見足りないので、機会があれば川崎市市民ミュージアムに行って、また見てみたと思います。(まずオンデマンド配信される事を切に願っていますが・・・)


あと、上映会では質疑応答の時間がありまして、僕もいくつか質問させてもらったんですが、なかなか恥ずかしいもんですよ。
だって周りの質問者は「早稲田大学教授の○○です」「日本大学の~」「学芸員の~」って、みんな有名な大学の教授とか学生、学芸員ばっか。
そもそもこの上映会の目的自体が『ジャーナリズムについて考える』という極めて真面目な物ですから、僕みたいに「南ベが好き!」って理由で来ちゃったのは、70名くらい居た参加者の中で僕ら2人だけだと思います。
考えてみれば、ここ東大なんですよねw
でも来たからにはタダでは帰りません。僕の通ってた専門学校だって東京自動車大学校、略して東大です!
という訳で、他の参加者が当時の政府や報道関係者について質問を挙げる中、僕一人だけ「グエン大尉の本名は?」、「具体的な撮影時期は?」とか、軍ヲタ目線丸出しの質問をさせて頂きました。
にも拘らず、丁寧なお答えをして頂け、大変ありがたく感じています。


この他にも当時日本のマスコミはわんさかベトナムに取材行ってた訳で、その映像は今も各局の資料庫に大量に眠ってるはずなんです。
せめてNHKだけでも、受信料取ってるんだから無料で!オンデマンド配信するなり国会図書館で見れるようにするなり、公開に務めて欲しいものです。





同じカテゴリー(映画)の記事画像
14年ぶりのサバゲー
写真と映画からいくつか
令和元年ゴールデンウィークの思い出
【祝】WAR全米大学映画祭 審査員賞受賞!
映画 Trên Bốn Vùng Chiến Thuật ── 四つの戦術地区で ──
テレビ、映画、ベトナム語
同じカテゴリー(映画)の記事
 コブラ会イッキ見 (2022-12-11 15:50)
 14年ぶりのサバゲー (2020-09-05 17:38)
 写真と映画からいくつか (2019-08-17 22:36)
 令和元年ゴールデンウィークの思い出 (2019-05-07 02:21)
 YDA JAPAN映像作品「第二次アプバクの戦い 1965」 (2019-04-13 19:45)
 【祝】WAR全米大学映画祭 審査員賞受賞! (2018-02-10 02:05)

この記事へのコメント
私の持ってる録画ビデオのタイトルは
南ベトナム海兵大隊戦記
1965年乾期中部戦線
と長たらしいタイトルでした。
グエン大尉のフルネームまでは知りませんでした。
とても参考になりました。
いつでもビデオテープですが、お貸ししますよ。
Posted by Major Nguyen at 2014年01月26日 14:27
>Major Nguyenさん
ビデオをお持ちでしたか!ぜひお願いします。
急いではいないので、イベントでお会いする際で結構ですので。
VHSだといずれ劣化してしまうので、お借りしたらうちのレコーダーでDVDにダビングさせて頂きます。
ちなみに、そのビデオは収録時間50分くらいですかね?
50分であれば、1995年にNHKで放映された総集編という事になりますが、もし25分のなら、オリジナル版なので大発見かもしれません。
Posted by タイガタイガ at 2014年01月26日 16:26
私のは確実に再放送のものです。
春のイベントには参加するつもりですから、そのときにでも。
Posted by Major Nguyen at 2014年02月03日 13:48
>Major Nguyenさん
はい、よろしくお願いします!
Posted by タイガタイガ at 2014年02月04日 17:26
はじめまして。
私もカメラマンの石川文洋氏の書いた
従軍記を読んで非常にこの映像に興味を抱いている次第です。
以前に若い兵士が小鳥を手に載せている場面が含まれる短い映像を動画で私も見ましたが、全編を見たいのでなんとか、DVDをお借りさせて頂くことは可能でしょうか?
何卒宜しくお願い致します。
Posted by タカ at 2020年11月24日 08:36
タカ様
はじめまして。コメントありがとうございます。
DVDの件ですが、興味のある方には喜んで提供させて頂きます。
コメントは公開しませんので、こちらのコメント欄にメールアドレスを書き込みしていただけますでしょうか?こちらからご連絡差し上げます。
よろしくお願いいたします。
Posted by 森泉大河森泉大河 at 2020年11月26日 18:44
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。