2015年09月06日
AF1965レシーバーについて
以前から写真でその存在は把握していたものの、その正体がいまいち分からなかったコルトAR-15シリーズのレシーバーがあります。それが俗に『605レシーバー』と呼ばれる、ボルト・フォアードアシスト機構は無いんだけど、フォアードアシストっぽい出っ張りは付いているという謎のアッパーレシーバー。
▲コルト社のカタログ"5.56mm MILITARY WEAPONS SYSTEMS (1965年)"に掲載された(とされている)コルトCAR-15カービン / Model 605B
ソースとなったこの写真でModel 605に搭載されていた事から、マニア間で"605レシーバー"と呼ばれるようになった。
このレシーバーについては、AR-15の本家アメリカの研究者の間でも情報が錯綜しているようです。長年AR-15研究のバイブルとされ、最も信頼を得ている二次資料『The Black Rifle』ですら、このレシーバーについては単に"XM16E1のキャストを切断したような形状に見える (P.171)"と述べるのみで、詳細については触れられていません。その為今日まで各々のマニアがネット上で持論・推論を述べ、それを基にまた推論が繰り返されるという、かなりファジーな存在に留まっていたのが、この605レシーバーでした。
ただし、そこはアメリカ。論議を巻き起こした分有名になってしまった605レシーバーはマニア垂涎の品となり、レトロAR-15の復刻パーツを手がけるNDS社(NoDak Spud LLC)より復刻版605レシーバーが絶賛発売中です。よく海外のフォーラムに載っているコレクター所有のCAR-15カービンと称される銃は、ほぼ100%このNDS社製品で再現されたレプリカですね。元々コルト製CAR-15シリーズは生産数が少なく、現存するものの多くは博物館に収蔵されているので、オリジナルを入手するのはまず不可能なようです。
またベトナム戦争時代に大量に生産されたXM16E1やM16A1ですら現在は物凄いプレミア価格が付いており、かつフルオートの軍用銃自体がそう簡単に所有できる物ではないので、コレクター所有の軍用AR-15シリーズを見る時は、まずレプリカである可能性を疑って見るようにしています。(中にはとんでもないお宝持ってる大金持ちのコレクターも居ますが)
もう3年も前の記事ですが、おそらく日本では知られていない情報なので、ここに要約を記します。
我々WeponsManはこのレシーバーに関してある重要な手掛かりを持っているので、仮定や推測などではなく、一次史料に基づいた情報を皆さんにお届けします。それはREPORT OF THE M16 RIFLE REVIEW PANEL (ADA953121 アメリカ陸軍省, 1968年6月1日)の付録11に記載されている情報です。
P. 11-9 1965年1月25日コルト社はアメリカ政府との契約(CONTRACT 508)に基づき、空軍向けM16 (Model 604)の生産スケジュールに間に合わせる為、すでに製造済みのXM16E1 (Model 603)アッパーレシーバーのアルミキャスト(切削工程前の鋳塊)62,278丁分にボルト・フォアードアシスト部分を削り落とす加工を行いM16用に転用したいと申請する。
P. 11-9 1965年2月5日XM16E1用キャストを加工してM16に使用する旨を再度申請する。加えてその費用は政府に請求しないと通達。この申請は1965年2月17日に承認された。
P. 11-11 1965年3月25日M16ライフルの4月納入分に間に合わせる為、再度XM16E1用キャストの加工を申請、4月1日に承認される。
P. 11-28"1965年1月から3月にかけて、M16用アッパーレシーバーを鋳造するコルトの下請け業者では、納入スケジュールの遅れが出ていた。アメリカ空軍への納期を満たすために、コルトはXM16E1用アッパーレシーバーのキャストからボルト・フォアードアシスト機構部分を削り取りM16用に転用する許可を得た。"
【Hognose氏の解説】このように所謂605レシ-バーは元々アメリカ空軍のM16 (Colt Model 604)に使用される物だった。1月25日の申請にある62,278丁という数字は加工するXM16E1レシーバーの上限を示しており、実際に加工が行われたのは1965年2月および4月納入分程度だったと思われる。AR-15フリークの間では、アメリカ空軍は陸軍のXM16E1のようなボルト・フォアードアシスト付きM16ライフルを頑なに拒否した事は常識となっているが、実はそれを明文化した公的な書類は発見されていない。今回紹介したこの文書は、既に製造済みのXM16E1キャストを加工してでもボルト・フォアードアシスト無しのM16を納入しなくてはならなかったコルト社とアメリカ空軍の関係を示しており、上記の定説を裏付ける重要な証拠と言えるだろう。
【参考】
▲切削加工前のキャストの状態のアッパーレシーバー
(画像はNDS社NDS-603。外観はXM16E1と同一)
う~ん、納得。これで長年の論争に決着がつきましたね。つまり例のCAR-15カービン(Model 605B)は、たまたま工場に余ってたレシーバーを組んだだけの、偶然の産物だったようです。
実は他のモデルでもコルトのラボやカタログの写真は、宣伝・プレゼンの為にいち早く印刷物にする必要があるため、試作段階や旧式の部品が入り混じった物を使ってしまう場合が多々あります。そのためカタログに載っている写真と、実際に量産されるモデルとはでは細部が異なる事はままある現象です。ゲームの宣伝によくある、『※画像は開発中のものです』と同じです(笑)
しかしこのレシーバーを"605"と呼ぶのが不適当と分かった以上、何か他の名前で呼ばなきゃね。年号とって"M16 Type1965"とか?あ、"AF1965"なんてどうだろう?なんかカッコイイじゃん。という訳で、当ブログではこのレシーバーを"AF1965"と勝手に命名する事にしました。流行るといいなぁ
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