2016年04月16日
M16ライフルについて
Model 601/602はM16か?
過去記事『コルトAR-15/M16の分類と刻印』で記したように、『M16』という銃の名称は、広義には以下の二つの意味を持ちます。
・AR-15系ライフルの米軍制式名 (U.S. Rifle 5.56mm M16, XM16E1, M16A1, M16A2, M16A3, M16A4)
・1970年代以降のコルトAR-15シリーズ軍用モデルの製品名(軍用モデルのみ製品名がAR-15シリーズからM16シリーズに変わった)
そして狭義には、米軍制式ライフルM16シリーズの中でも、実験型(Experiment)や発展型(Advanced)ではない無印の『U.S. Rifle 5.56mm M16』を指すと言えます。
では、U.S. M16ライフルとは具体的にどういった仕様だったのか?は、過去記事『Gen1~Gen3期のM16ライフル』のModel 604の項をご覧下さい。
と、ここである程度AR-15に興味がある人なら疑問に思うことがあるはずです。「Model 604以外にもあるじゃん」って。
そうです。日本におけるAR-15研究の先駆、床井雅美氏の名著『M16&ストーナーズ・ライフル』にも、その存在が明記されています。
"アメリカ空軍は、1962年に他に先駆けてAR-15・M601を制式に採用し、M16の制式名を与える"(P.21)
"改良型のAR-15・M602もそのままの制式名M16を変更せずに使いつづけた"(P.24)
この記述通りならば、U.S. M16ライフルという名称はModel 601, 602, 604の三系統に命名された事になります。しかし僕は、これについて異論というか、大きく付け加えるべき事があると思っています。
まず、床井氏の著書の中に、上記の記述を裏付ける出典は記載されていません。また、何かを研究する上で、"なかった証拠"というのは論理的に必要なく、"あった証拠"が無い限り事実とは認められないものと考えますが、あえて反証を試みるならば、以下の資料が存在しています。
▲図1. TO 11W3-5-5-1表紙 (アメリカ空軍省 1963年8月31日制定)
▲図2. AF MANUAL 50-12表紙 (アメリカ空軍省 1963年8月制定)
この二つは間違いなく、アメリカ空軍がModel 601を採用した後に制定した公式なマニュアルですが、表紙にすら"M16"という型番は記載されていません。どちらもAR-15ライフルと明記されています。
このことから、僕はModel 601/602が米空軍で採用された当時の名称は、コルトの製品名そのままの"AR-15"であったと考えます。
※全軍制式ではない銃は、メーカー製品名がそのまま米軍での取り扱い名になる事がよくあります。
ではいつ"U.S. M16ライフル"が誕生したのか。
それは、Model 602を改良したコルトAR-15第2世代の各モデルが、陸軍・空軍・海軍に制式採用された1964年でした。
このAR-15第2世代の中で、アメリカ空軍の要請に則り、陸軍が求めたボルト・フォアードアシスト機構をあえて搭載しなかったモデルがColt AR-15 Model 604であり、"U.S. M16ライフル"と命名されたのでした。
つまり、このModel 604以前にM16という名称は存在しなかったと言えます。
▲図3. TM 9-1005-249-14 / TO 11W3-5-5-1 / NAVWEP O.P. 3333表紙
(アメリカ陸軍省・空軍省・海軍省 1964年6月15日制定)
しかしその一方で、実はModel 604より先に空軍に採用されていたModel 601, 602に対して"U.S. M16ライフル"という名称が使われている実例が多々あります。
空軍はModel 604を採用した後もModel 601/602の在庫を使い続けており、これらの銃は本来の制式名であるAR-15ではなく、書類上M16として扱われていのです。
床井氏は、そういった例を見て「Model 601/602も"U.S. M16ライフル"として採用された」と解釈したのではないかと思います。
これは一体どういうことでしょうか?
この矛盾を解くヒントは、マニュアルの品番にあります。
図3の1964年制定M16 / XM16E1用マニュアルの表紙には、このマニュアルは図1のAR-15用マニュアル『TO 11W3-5-5-1』の改定版である事が明記されています。(陸軍・海軍で新たにマニュアル品番が制定されただけで、空軍での品番は図1から変更なし)
そしてこのマニュアル以降、空軍の書類からAR-15という名称は姿を消し、旧来のModel 601/602までもがM16と表記されるようになりました。
つまり、Model 601/602は米空軍にM16として採用されたのではなく、後継機種であるModel 604がM16ライフルと命名された事によって、配備数の少なかったModel 601/602もまとめてM16として扱われるようになった、と僕は解釈しています。
その理由として、空軍はもともと地上要員向けのライフルにかけられる予算が少ないため、Model 604が採用された後も旧型のModel 601/602を使い続けざるを得なかったという事情が垣間見れます。
これらのライフルは訓練で使用される度に損耗・老朽化が進んでいきましたが、新品のModel 604を十分に発注する予算の無かった空軍は、老朽化を補うためModel 601/602のロアレシーバー以外の部分(※)をModel604用のパーツに組み替えることで懸命にライフルの延命を計りました。※ロアレシーバーはシリアルナンバーが入る銃の本体という扱いであるため、パーツ品番は存在せず、単体では発注できない。
その結果、空軍兵士の使うライフルには、ロアレシーバーだけがModel 601で、その他の部分はModel 604から寄せ集めたキメラ状態という例が多々見られるようになりました。[図4]
アメリカ空軍は、こうしてModel 601/602を延命していく事を予め見越して、混乱を避けるために採用時のAR-15という名称を廃し、Model 601, 602, 604を全て"U.S.M16ライフル"として統一したのではないかと推測しています。
▲図4. キメラM16を使用するアメリカ空軍セキュリティーフォース兵士(1990年代)
Model 601のロアレシーバーに、Model604(1983年型)の円筒型ハンドガード等が組み合わされている状態
XM16E1 / M16A1との関係
"M16"と"XM16E1"という名前を見比べてみると、いかにもXM16E1は無印M16の改良版のような印象を受けますが、実はそうではありません。
この二つの銃はどちらも、コルトAR-15第1世代のModel 602を改良した第2世代モデルであり、それぞれフォアードアシスト機構搭載(Model 603)、非搭載(Model 604)というバリエーションでした。
そのためModel 603には"U.S.XM16E1"、Model 604には"U.S.M16"という制式名が1964年に同時に制定されました。[図5]
また同様にAR-15シリーズが1967年に第3世代へとアップグレードすると、Model 603は"U.S.M16A1"、Model 604は"U.S.M16"へと再制定されています。[図6]
▲図5. TM 9-1005-249-14, 26頁 (アメリカ陸軍省 1966年制定)
▲図6. TM 9-1005-249-12, 3頁 (アメリカ陸軍省 1968年制定)
このようにM16 (Model 604)とXM16E1/M16A1 (Model603)は、常に並行して開発されており、その変遷を大まかにまとめると以下の表のようになります。
Gen | レベル | 概要 | 非フォアードアシスト | フォアードアシスト |
1 | 1 | アーマライトAR-15をコルトで生産 | アーマライトAR-15 (Mod 601, 1959) | |
2 | 樹脂部品変更 | アーマライトAR-15コルトモデル (Mod 601, 1959) | ||
3 | 弾薬の仕様・バレルツイスト変更 | コルトAR-15 (Mod 602, 1963) | ||
4 | フォアードアシスト追加検討 | コルトAR-15 / XM16E1 (Mod 602, 1963) | ||
2 | 1 | ダストカバー下リブ追加 | M16 (Mod 604, 1964) | XM16E1 (Mod 603, 1964) |
2 | 円筒ハンドガード仕様 | XM16E1 (Mod 603, 1964) | ||
3 | 改良(Gen3)案 | M16A1 (Mod 603, 1967?) | ||
3 | 1 | ボルトキャリアー、レシーバー他改良 | M16 (Mod 604, 1967) | M16A1 (Mod 603, 1967) |
2 | ストックを工具収納ドア付きに変更 | M16 (Mod 604, 1971) | M16A1 (Mod 603, 1971) | |
3 | 円筒ハンドガード仕様 | M16 (Mod 604, 1983?) | M16A1 (Mod 603, 1983?) | |
3 NAVY | 1 | 海軍チャイナレイク・ラボがSEAL向けに海水対策 | Mk4 Mod0 (Mod 603, 1970) | |
2 | 海軍SEAL向け改良型 | Mk4 Mod1 (Mod 603, 1981?) |
おまけ: M16改"M16A2"
以前、M16A1のロアレシーバーが再打刻されM16A2として再利用されている例を紹介しましたが、やっぱりあったM16(Model 604)ベースのM16A2。
と言うかこれ、打刻ですらないし。リューターで手書きじゃん・・・。
いっそ"BURST"ではなく"BOOST"と書いて欲しかった。その方がカッコイイ。ブーストモード強そう。
この記事へのコメント
こちらの記事を偶然拝見し1つ気になることがあったので、質問させていただきます
ベトナム戦争で米陸軍によって使用されたM603の刻印にAR15の刻印は入っていたのでしょうか?
ベトナム戦争で米陸軍によって使用されたM603の刻印にAR15の刻印は入っていたのでしょうか?
Posted by あ at 2016年07月03日 21:05
はい、軍用モデルからAR-15刻印がなくなるのは1970年代後半ですので、それ以前のコルト製AR-15シリーズにはもれなく"COLT AR-15"の商標が刻印されています。
ただし、ベトナム戦争期にコルト以外で生産されたM16A1にはコルトの商標が使えないのでAR-15の刻印はありません。
http://ichiban.militaryblog.jp/e747519.html
ただし、ベトナム戦争期にコルト以外で生産されたM16A1にはコルトの商標が使えないのでAR-15の刻印はありません。
http://ichiban.militaryblog.jp/e747519.html
Posted by タイガ at 2016年07月04日 09:32
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