2016年04月09日
映画『記憶』:共和国兵士三世の視点で
以前『リエナクターの輪』で紹介した"My bro"ハウ・ルック君(25歳)の監督作品が、カリフォルニアのベトナム移民系テレビ局SBTN(Saigon Broadcasting Television Network)で放映される事が決定しました。SBTNの公式サイトに詳細が掲載されていますので、その全文を邦訳したものをここに記します。
引用: Saigon Broadcasting Television Network
http://www.sbtn.tv/vi/tin-cong-dong-hai-ngoai/sbtn-trinh-chieu-phim-hoi-uc-goc-nhin-nguoi-linh-cong-hoa-tu-he-thu-ba.html
引用: Saigon Broadcasting Television Network
http://www.sbtn.tv/vi/tin-cong-dong-hai-ngoai/sbtn-trinh-chieu-phim-hoi-uc-goc-nhin-nguoi-linh-cong-hoa-tu-he-thu-ba.html
映画『記憶』SBTNにて放映決定:共和国軍兵士三世の視点で
今年の"暗黒の四月(サイゴン陥落)"を記念し、SBTNテレビは『記憶(Hồi Ức)』と題された全12話の短編映画を放映します。この作品はSBTNと若干25歳のアマチュア映画監督ハウ・ルック氏との共同制作作品です。この作品はおそらく、海外在住ベトナム人コミュニティにおいて、共和国軍兵士の孫の世代が彼らの祖父達を描いた初の映像作品であり、彼らが祖父たちの時代をどのように理解しているかも見所です。
画像: 映画『記憶』より
ベトナム ドンタップ出身のハウ・ルック氏は今から10年前、15歳の時にベトナムを去り、アメリカ合衆国ジョージア州に移住しました。彼の祖父は元ベトナム共和国軍の空挺部隊兵士でした。ハウ・ルック氏は少年時代にベトナム本土で受けた"社会主義教育"を覚えており、教師たちは今だに、1975年以前の南ベトナムの政権関係者を"米帝の傀儡"、"猟犬"、"売国奴"と罵り、子供たちに旧政権への憎悪を繰り返し植え付けていたといいます。
彼はある日、家で両親と祖父母が"私たちの国"について話しているのを聞きました。「ちくしょう、共産のやつらめ・・・」という声が聞こえてきました。ルック氏は子供ながらに好奇心に駆られ、独学で歴史を勉強するようになり、ついに教師の教える歴史は事実とは全く異なる捏造だという事に気付いてしまいました。そして再び授業中に教師が"米帝の傀儡"を非難したとき、ルック氏は席から立ち上がって反論しました。すると教師はルック氏を「クソ反動め!」と罵ったといいます。休み時間になり、ルック氏の周りには「なんであんな事を言ったの?」とクラスメイト達が集まったので、ルックは知っている事を説明したそうです。
家族の過去、そして少年時代の好奇心から、ルック氏は次第にベトナム共和国軍人への憧れを強めていきました。さらにアメリカに移住した事で、ベトナム本土では"勝者(ベトナム共産党)"と"融和を拒んだ者(旧ベトナム共和国政府)"という歪んだ二元論によって隠蔽・捏造されているベトナム共和国時代の真実の情報が得られ、その情熱はさらに燃え上がっていきました。彼は共和国軍に関するアイテムに魅了され、彼の家は小さな軍事史博物館と化していきました。
【あとがき】
それから彼は、共和国軍人への敬意を何らかの形で示そうと考え、戦時中の自分の祖父を演じることにしました。映画への情熱と学習意欲を持つ彼は、理系大学で学んでいるもののあえてCGを用いない映画を目指しており、モンタージュ技法を得意としています。そして彼は共和国軍の兵士テーマとして短編映像を制作し、それを大学生アマチュア映画コンテストに出品すると、作品は見事入賞を果たしました。
▲全米学生映画祭(Campus MovieFest)に出品されたハウ・ルック氏の監督作品『Nightmare』
この作品をきっかけにSBTNテレビは彼の存在を知り、我々は彼を奨励すると共に彼の情熱がさらに実を結ぶようサポートする事となりました。こうして生まれたのが『記憶』と題された12の短編映画です。
ハウ・ルック氏は自身について、ワンマンバンドのようなアマチュア映画監督だと冗談めかして答えました。各フィルムは20分ほどの短編であり、作品のプロットは全て共和国軍兵士達の証言に基づいています。ストーリーはルック氏自身が元空挺部隊、海兵隊、レンジャー隊員などから聞き取った実話であり、また作品に使われている衣装、軍装品などはすべてルック氏個人のコレクションが使用されています。映画に出演する俳優はルック氏の情熱に賛同する若い仲間達であり、彼らもまた映画を作る中で自分自身のルーツを学び、探求する喜びを分かち合っていきました。
一方でルック氏は、自分ひとりの情熱だけでは当時の歴史・政治の側面を詳細に調べきるには不十分だとも自覚しています。彼の映画は、正直だが思慮深い者、家庭的だが誇り高い者、温和だが祖国と同盟国の為に自分を犠牲にする覚悟がある者など、共和国軍兵士の人生の物語を再構成しようとするものです。その為、我々はこの記事を読まれている元共和国軍兵士からのお便りを心からお待ちしております。あなたの物語は、この熱意と誇りに満ちた若き映画製作者の作品に特別な魂を吹き込み、あなた自身の人生の価値を後世に残すものとなります。
『記憶』は、海外で生まれ育った若い世代が、自分達の祖父・父親の世代が辿った物語を尊重する作品です。そこには軍隊時代の良き思い出と共に、祖国防衛を果たせなかった無念が綴られています。『記憶』のように、世代と世代との認識がつながっている限り、ベトナム共和国の歴史は決して忘れ去られる事のないものだと信じます。
またルック氏は『記憶』を通じて、ベトナムに住んでいる若者に、我々の世代は何をすべきか、情熱をどこに向けるべきかを考えて欲しいと語っています。
映画『記憶』は2016年4月15日よりSBTNにて放映を開始します。『記憶』は海外在住ベトナム人にとって今年の暗黒の四月を記念するものであり、また同時に全てのベトナム共和国軍兵士へ捧げる、意義のある作品であります。
ドアン・フン / SBTN
映画『記憶』予告編
ちなみに彼らが着ている衣装のうち何着かは、僕が日本で代理購入し発送したリプロ迷彩服。このような記念碑的な作品に、自分も衣装協力という形で関れた事を大変光栄に思います。でもルックから衣装を集めて欲しいと依頼された時には、既に品切れになっている商品が多くて、人数分揃えてあげられなかったのが少し心残り。今度、NKTコマンド雷虎(いわゆるMACV-SOGのRT)の作品撮るんだけど、よかったら君も出演してみない?ってお誘いが来たけど、さすがにアトランタは遠いな・・・。ただ今は無理でも、彼とはそう遠くないうちに会う事になる気がしています。情熱さえあれば、地球なんて案外狭いものさ。
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