2024年01月30日
カオダイ軍じゃないベレー
※2024年1月31日更新
※2024年2月2日更新
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そう判断する理由は上の記事にまとめてあるので、今回はなぜこのような誤解が生じたかについて私見を述べてみます。
※カオダイ軍については過去記事『カオダイ軍の歴史[草稿]』参照
まず、誰が最初にこんな間違いを言い出したのかは分かりません。僕がベトナム戦争に興味を持ったころ(20年前)には、すでに欧米の本の多数がこのベレー章を『カオダイ軍のもの』と紹介しており、ちょっと知識のある人の間ではそれが常識になっていました。
しかし、この誤解が生じた原因なら見当が付いています。それは1955年に暗殺されたベトナム陸軍カオダイ部隊司令官チン・ミン・テー将軍の葬儀の写真です。
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▲1955年5月6日サイゴン
確かにこの葬列はカオダイ部隊の物であり、彼らは問題のベレー章を着用しています。
そのため、カオダイ部隊が着用しているベレー章=カオダイ軍のベレー章と解釈されてしまったのでしょう。
そして、この誰かの勘違いが、検証される事もなく鵜呑みにされ、様々な本に繰り返し掲載されてしまったというのが、ここ数十年のベトナム徽章コレクター界の実情です。
しかし実際には、このベレー章は、単なる陸軍ベレー章(1954-1967年)です。
この写真では、たまたまカオダイ部隊司令官の葬儀でカオダイ部隊が被っていたというだけで、実際には誰の葬儀でも、何の部隊でも関係ありません。
単純に、陸軍将官の葬儀で、陸軍兵が、陸軍ベレーを着用しているだけです。カオダイ教は何も関係ありません。
今日ではこの理解は、一流の研究者の間でようやく受け入れられつつありますが、そこまで熱心ではない多くのマニアは何十年も昔の本の記述にしがみ付き、未だに知識をアップデートできていないようです。
私が尊敬する先輩研究者であるフランソワ・ミラード氏は、2011年に海外のミリタリーフォーラムで、この「カオダイ教とは無関係」説を投稿したところ、それはもう喧々諤々だったそうです。
中には頑なにカオダイ軍説を信じる人も居たそうですが、そう言う彼らの中に、自ら検証したり史料を提示する者は一人として居ませんでした。
話は変わりますが、私は長年、この陸軍ベレー章が採用されたのは、ゴ・ディン・ジエムが政権を握りベトナム国軍(QĐQGVN)がベトナム共和国軍(QĐVNCH)に改編された1955年だと思い込んでいました。(階級章や帽章等はこの時新型に代わったので)
しかしある日、上で述べたミラード先生がこんな映像を提供して下さりました。
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▲1954年トゥイホア
1954年に撮影された映像に、例のベレー章が写ってるじゃないか!マジかよ。
これはけっこう衝撃的な事です。ベトナム軍の徽章類が大きく変わるのは1955年なのに、その前年にベレー章だけ先に採用されていたとは。
まだまだ知らない事が沢山あるなと思い知らされました。
さすがミラード先生だぜ。
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