2021年11月26日
南ベトナムにおける「解放戦争」の欺瞞性(1965)
先日、今から56年前の1965年にベトナム共和国政府が発行した『南ベトナムにおける「解放戦争」の欺瞞性』という資料を入手しました。内容は電子化本家さんに依頼して全ページスキャンし、私が運営するこちらのウェブサイトで公開しています
この本はベトナム共和国政府が自国の1965年版防衛白書を、日本の人々向けに抜粋・翻訳したもので、内容の概要は以下の通りです。
今回の白書は、ハノイ政権がその平和宜伝とはまったく裏腹に、破壊的・侵略的行動を強化しようとしていることを暴露することを目的としたものである。この白書に収録された証拠書類は、いわゆる"南ベトナム解放戦線"がハノイ共産政権に完全に依存していることを示す新たな証拠を提供しているばかりでなく、共産諸国、とくに北京政権が、南ベトナムに対する侵略にかかりあっていることをも立証している。(「まえがき」より抜粋)
・いわゆる"南ベトナム解放戦線"の正体・いわゆる"南ベトナム解放戦争"に対する北ベトナム共産政権の補給と維推の実情・ベトナム共和国政府がとった防衛措置・共産主義者の歴然たる侵略の事例1) 破壊工作員が非武装地帯を越えて潜入している―ポ・パン・ルオンの事例2) 共産国製武器・弾薬の南ペトナムヘの密輸―クア・ベトの事例3) 共産国製武器・弾薬の南ベトナムヘの大最輸送(「目次」より抜粋)
この本は、日本のとある図書館の蔵書だったものが除籍・放出されたもので、中には懐かしの貸し出しカードも入っていました。しかし貸し出しの記録は一つも無し。
ハノイ政権が語る『抗米と解放』のドラマに多くの人々が陶酔している日本では、ハノイ政権に批判的な情報はほとんど「親米ポチの陳腐なプロパガンダ」と鼻で笑われるので、もしかしたら、この半世紀間ほとんど誰にも読まれなかったかも知れません。
とは言え、僕はベトナム共和国やアメリカ政府などハノイに敵対する側による発表の方が真実だと主張している訳でもありません。この本も含め、それはそれで実際都合のいい部分だけをまとめたプロパガンダです。
(余談ですが、僕は長年日本国内外のベトナム難民コミュニティや民主派ベトナム人と関わってきましたが、彼らも気に入らない相手には例え身内であっても「あいつはベトコンだ」とレッテル張りをして排除しようとする下らない光景を何度となく見てきました。ベトナム難民コミュニティはこの40年間、そういった身内での赤狩りを繰り返してきたので、多くの穏健派は自分たちのコミュニティそのものに失望し政治への関心を失いました。)
そもそもの話ですが、この世にある全ての情報が人間の言語で書かれている以上、その全てが人間によって多かれ少なかれ意図的に編纂・公表された『プロパガンダ』であり、人間の意図が介在しない『真実』など、そもそもこの世に存在しないと考えています。 政府発表や民間のメディアはもちろん、個人だって他人に何か伝えたい時は、相手にどう伝えたいかを考えた上で言葉を選んで語るでしょう。
したがって私に出来る事は『真実』の主張ではなく、あくまで歴史愛好家として『そういったプロパガンダがあった事実』を収集・保存する程度だろうというのがここ数年の私のスタンスです。
まぁその部分がどう変わろうとも、結局、私がホー・チ・ミンとベトナム共産党に対して中指立て続ける事に変わりはありませんが。
この記事へのコメント
Taiga様の冷静かつ公正な考察には感服します。
イデオロギーに偏った見方をしてしまいがちな問題である中で、こう言った角度からの分析が一番真実を露わにしているように思います。戦史研究、ミリタリー学にしかなし得ない素晴らしい側面だと思います。
イデオロギーに偏った見方をしてしまいがちな問題である中で、こう言った角度からの分析が一番真実を露わにしているように思います。戦史研究、ミリタリー学にしかなし得ない素晴らしい側面だと思います。
Posted by カメ at 2021年11月26日 22:30
カメ様
ありがとうございます。とは言え僕は自分が公平でいようと考えたことはなく、むしろ好き嫌いの赴くままに生きてきました。
日本に住む約1万人の元ベトナム難民の方々は、この40年間、ほとんどの日本人に自分たち南ベトナム側の言い分を無視され続けてきましたから、その前に突然変異的な僕が現れた事で、涙ながらに手を握ってお礼を言って下さりました。その時感じた自分の存在意義は、終生変わる事はないと思います。
しかしあまりに近付きすぎたせいで、その好きな側の汚い面も多く見る羽目になったので、「冷静」と言うよりは「冷めてしまった」という表現が正しいですね。
とは言え、イデオロギーを動機として戦争について調査・発表している人とは違い、僕はミリタリーマニアとしての知識欲こそが根本的な動機なので、散々嫌な思いをしてもまだこうしてベトナムに関する記事を書いているんですから、そういう意味では自分がミリタリーマニアだった事は幸いでした。
ありがとうございます。とは言え僕は自分が公平でいようと考えたことはなく、むしろ好き嫌いの赴くままに生きてきました。
日本に住む約1万人の元ベトナム難民の方々は、この40年間、ほとんどの日本人に自分たち南ベトナム側の言い分を無視され続けてきましたから、その前に突然変異的な僕が現れた事で、涙ながらに手を握ってお礼を言って下さりました。その時感じた自分の存在意義は、終生変わる事はないと思います。
しかしあまりに近付きすぎたせいで、その好きな側の汚い面も多く見る羽目になったので、「冷静」と言うよりは「冷めてしまった」という表現が正しいですね。
とは言え、イデオロギーを動機として戦争について調査・発表している人とは違い、僕はミリタリーマニアとしての知識欲こそが根本的な動機なので、散々嫌な思いをしてもまだこうしてベトナムに関する記事を書いているんですから、そういう意味では自分がミリタリーマニアだった事は幸いでした。
Posted by 森泉大河
at 2021年11月27日 15:30

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