2016年08月28日
地方軍ベレー
※2024年9月21日更新
実在した事は確かなんだけど、当時の写真を見る限りほとんど使われてなかったっぽい超不人気ベレーについて。







実在した事は確かなんだけど、当時の写真を見る限りほとんど使われてなかったっぽい超不人気ベレーについて。

▲地方軍・義軍部隊章

▲地方軍ベレー章
以下、着用が確認できる数少ない写真。

▲内務省保安隊司令官・初代地方軍司令官ズン・ゴック・ラム少将 [1964年3月ベトナム]
この写真の時点では保安隊は内務省が管轄する民兵組織だったが、同年5月に組織が国防省に移管され『地方軍 (ĐPQ)』として再編される。

▲地方軍の軍楽隊 [1960年代ベトナム]
地方軍ベレーは基本青色ですが、この写真の指揮官は陸軍一般将兵と同じく黒色のベレーに地方軍のベレー章を付けているように見えます。

▲アメリカ軍MACV地方軍付きアドバイザー [1970年サイゴン]
カナダのドキュメンタリー番組『SAD SONG OF YELLOW SKIN』より

▲米国在住地方軍ベテラン [2015年アメリカ サンノゼ]
去年行ったカリフォルニアの傷痍軍人チャリティーコンサートに参加されていたベテランの方です。
僕が確認している着用例は以上です。地方軍・義軍と言えば最終的に55万人もの兵力を有し、ベトナム共和国軍の総兵力の半数を占める巨大な組織であったのにも関わらず、不思議なことにこのベレー帽の着用例は数えるほどしか見受けられません。もちろん、僕も実物をこの目で見た事はありません。なぜこんなにも使われた数が少ないのでしょうか?
僕は、その理由は単純に『人気が無かったから』だと思っています。まず、独自のベレー帽が制定されているエリート部隊(空挺やレンジャーなど)では、そのベレーを被る事は将兵にとってステータスであり、礼装時も制帽として着用されました。ただし、当時のベトナム共和国軍では多くの部隊でベレー帽は官給品ではなく自費購入品だったそうです。なのでエリート部隊以外の陸軍一般部隊にもベレー帽は制定されていましたが、こちらはあくまで略帽の一種であり、兵科毎の違いもなく、制帽の代わりにはなりませんでした。その為、そんな物をわざわざ自費で購入する兵士は少なく、せいぜい経済的に余裕のある士官・下士官がオシャレとして被る程度でした。
一方、地方軍・義軍には陸軍一般部隊とは別の青いベレー帽が制定されていましたが、これはエリート部隊のようなステータスとは見做されませんでした。なぜなら地方軍・義軍は元々民兵組織であり、陸軍一般部隊よりも格下の補助部隊であるため、ベレーが何色であろうと決してエリートではなかったからです。従って、陸軍一般部隊よりもさらに給料の安い地方軍・義軍の兵士が、わざわざ格下部隊を示す地方軍ベレーを購入する事はほとんど無かった、というのが着用例が極端に少ない原因だと考えています。
しかし、地方軍ベレーが不人気であり続けた一方で、実は地方軍将校の中には地方軍ベレー以外を購入して着用する者が数多くいました。彼らが着用したのが、オリーブ色または黒色の陸軍一般部隊将校ベレーです。むしろベレーを被っている地方軍将校のほとんどが一般部隊ベレーを着用していたので、僕も最近まで、地方軍も陸軍と同じベレーが制定されているのだと誤解していたほどです。

▲アメリカ海兵隊員にベトナム語の講習を行う義軍将校 [1960年代後半ダナン]
アメリカ海兵隊司令部戦闘撮影課製作『Combined Action Program』より
地方軍と言えども、将校は正式な士官教育を修了した正真正銘の陸軍士官ですから、他の部隊から格下と見られたくなかったのでしょう。これは本来制定されているものとは別の被服を身に着けることになるので、正確には規定違反だったようですが、特に咎められることもなったようです。これについてはアメリカ在住の元地方軍PRUやNKTベテランの方々に僕が直接聞き取りを行い、「本当は違かったけど慣例として使ってたよ」と証言を頂いています。
以上、戦後のマニアどころか、当時の兵隊からも見向きもされなかった残念なベレーについてでした。
この記事へのコメント
地方軍のベレーの謎が解けました!
ありがとうございます。
黒ベレーだと思っていたのですが、青だったんですね。
決して二戦級部隊ではないので、写真もあるはずなのですが謎な部分も多いんですよね。
ベテランさんの写真もチェックしているのですが、中々地方軍ベテランさんは出会う事がないですしね。
ありがとうございます。
黒ベレーだと思っていたのですが、青だったんですね。
決して二戦級部隊ではないので、写真もあるはずなのですが謎な部分も多いんですよね。
ベテランさんの写真もチェックしているのですが、中々地方軍ベテランさんは出会う事がないですしね。
Posted by CROSS at 2016年08月28日 23:09
CROSSさん
お役に立てて何よりです^ ^
モノクロ写真だと判断付かない場合も多いのですが、基本はダークブルーと考えていいと思ってます。
//img01.militaryblog.jp/usr/i/c/h/ichiban/9447387363_74924ce86c_o_1.jpg
↑こちらの軍楽隊の写真では、ブルーのネクタイと飾緒をしているのがはっきり写っているので、ブルーが地方軍のイメージカラーだったのかも知れません。
写真が少ないのは、当時の外国人カメラマンが歩兵師団と地方軍を一緒くたにARVNと書いているため、徽章以外では見分けがつかないだけで、実際にはARVNとされている写真のうちけっこうな数が地方軍なのでは?と思っています。
またSOGやグリーンベレーが駐屯する特殊部隊キャンプを警備しているのは(ド田舎の小さい基地なので)地方軍中隊の場合が多いですし、PRU関係もあるので、最近は地方軍関連は米軍特殊部隊系アソシエーションのサイトが狙い目な気がしています^ ^
お役に立てて何よりです^ ^
モノクロ写真だと判断付かない場合も多いのですが、基本はダークブルーと考えていいと思ってます。
//img01.militaryblog.jp/usr/i/c/h/ichiban/9447387363_74924ce86c_o_1.jpg
↑こちらの軍楽隊の写真では、ブルーのネクタイと飾緒をしているのがはっきり写っているので、ブルーが地方軍のイメージカラーだったのかも知れません。
写真が少ないのは、当時の外国人カメラマンが歩兵師団と地方軍を一緒くたにARVNと書いているため、徽章以外では見分けがつかないだけで、実際にはARVNとされている写真のうちけっこうな数が地方軍なのでは?と思っています。
またSOGやグリーンベレーが駐屯する特殊部隊キャンプを警備しているのは(ド田舎の小さい基地なので)地方軍中隊の場合が多いですし、PRU関係もあるので、最近は地方軍関連は米軍特殊部隊系アソシエーションのサイトが狙い目な気がしています^ ^
Posted by タイガ
at 2016年08月29日 18:06

勉強になります!
フランス軍の影響が有るのですね。自分が持っている、フランス軍のベレーバッジに似た物がありました!↓
https://fr.wikipedia.org/wiki/École_polytechnique_(France)
多分訳したら、フランス軍工科学校(大学?)
士官大学みたいです。(すみませんあんまり訳に自信がありません。)
バッジのリボンにPOUR LA PATRIE LES SCIENCES ET LA GLOIRE書いてありました。
南べ軍の魅力は、やはりデザインの良い時代のフランス軍の影響ですかね!
地方軍は旧軍的には郷土防衛隊ですかね?
個人的にはPRUのマニアなので之からも期待してます(笑)
ではでは
フランス軍の影響が有るのですね。自分が持っている、フランス軍のベレーバッジに似た物がありました!↓
https://fr.wikipedia.org/wiki/École_polytechnique_(France)
多分訳したら、フランス軍工科学校(大学?)
士官大学みたいです。(すみませんあんまり訳に自信がありません。)
バッジのリボンにPOUR LA PATRIE LES SCIENCES ET LA GLOIRE書いてありました。
南べ軍の魅力は、やはりデザインの良い時代のフランス軍の影響ですかね!
地方軍は旧軍的には郷土防衛隊ですかね?
個人的にはPRUのマニアなので之からも期待してます(笑)
ではでは
Posted by 寅と緑葉 at 2016年09月08日 04:18
寅と緑葉さん
この学校のバッジがオリジナでしたか!勉強になりました。
ただ、南ベトナムでこのデザインが使われるようになったのはフランス軍撤退から10年近く経ってからですし、内容的にもあまり関連が無さそうなので、フランスの伝統を継承したというよりは、単にカッコいいデザインを採用しただけかも知れません。
地方軍は一応、民兵ではなくフルタイムの軍隊であり、形式上は省長官や村長など地方行政首長の指揮下にあるので、アメリカの州軍(戦時下なのでフルタイム)に例えると分かりやすいかと思います。
日本の国民義勇隊に相当する民兵組織としては、南ベトナムには市民防衛隊(NDTV)というのがあり、農民の象徴であるブラックパジャマを制服として、基地構築や戦災復興工事、治安維持任務にあっていました。
この学校のバッジがオリジナでしたか!勉強になりました。
ただ、南ベトナムでこのデザインが使われるようになったのはフランス軍撤退から10年近く経ってからですし、内容的にもあまり関連が無さそうなので、フランスの伝統を継承したというよりは、単にカッコいいデザインを採用しただけかも知れません。
地方軍は一応、民兵ではなくフルタイムの軍隊であり、形式上は省長官や村長など地方行政首長の指揮下にあるので、アメリカの州軍(戦時下なのでフルタイム)に例えると分かりやすいかと思います。
日本の国民義勇隊に相当する民兵組織としては、南ベトナムには市民防衛隊(NDTV)というのがあり、農民の象徴であるブラックパジャマを制服として、基地構築や戦災復興工事、治安維持任務にあっていました。
Posted by タイガ
at 2016年09月08日 13:16

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