2022年01月21日
LLĐBのベレー
※2022年10月20日更新
今まで謎だった初期のベトナム陸軍特殊部隊(Lực Lượng Đặc Biệt)のベレーに関する写真や情報が、最近ある程度集まってきたので、暫定的なまとめを記事にします。
なお、色や徽章が切り替わった時期については写真からの推定なので、今後の資料次第ではまた変わってくる可能性があります。
※初期のLLĐBの組織については過去記事『NKTとSOG 越境特殊作戦部隊の歩み[1]』参照
・1st: 赤(1957~1964年?)









初期のLLĐBベレーは赤色だったという噂レベルの話は前々から聞いていたものですが、ついにカラー写真が出てきました。
残念ながらこの写真の具体的な説明や撮影年は不明ですが、ベオガム(ダックハンター)系迷彩が支給された部隊はLLĐB(前身の第1観測群含む)かCIDGしかないので、写真の雰囲気からしてLLĐBと考えてよいと思います。
ちなみに兵士の持っているサブマシンガンはドイツ製のMP40!50年代にフランス軍コマンドが使っていたものの残り物だと思いますが、この年代で見られるのはとても珍しいです。
・2nd: 黒(1963~1964年?)

▲トゥアティエン省ナムドン特殊部隊キャンプ [1964年5月]
1963~1964年頃の短期間のみ見られるのが黒色のベレー。
一説によると、1963年3月に特殊作戦を統括する地理開拓局がLLĐBへと改編され、レ・クアン・タン大佐が初代LLĐB司令に就任すると同時にこの黒ベレーが導入されたとの事です。
しかし1963年11月クーデターにおいて、ジェム総統の側近であったLLĐB司令官タン大佐はジェム共々暗殺され、翌1964年後半(?)にはタン大佐時代に導入された黒ベレーや徽章も廃止されました。

▲クアンガイ省ザーブク特殊部隊キャンプ [1964年5月]
なお1963年に黒ベレーが導入された後も、一部では赤ベレーが引き続き着用されていたようで、1964年の写真では赤と黒両方の色のベレーが見られます。
※ちなみにベレーとは関係ないですが、この写真、1964年中にERDL(インビジブル?)迷彩服が写っているすごい貴重な例です。
・3rd: 暗緑色(1964~1975年?)

クーデター後の1964年、LLĐBは軍事政権の下でその組織を大幅に改編し再出発します。
これに伴いジェム政権/タン大佐期のベレーも廃止され、1964年後半~1965年頃にかけて新たに導入されたのが米軍グリーンベレーに倣った暗緑色のベレーです。こちらは終戦まで以後約10年間着用されました。
ベレー章
・1st(?): "1"のバッジ(1957年-?)

とある研究者によると、1957年にベトナム軍初の特殊部隊として創設された第1観測隊(翌年から第1観測群)では、部隊番号の1を意匠としたベレー章が使われたとされています。ただし僕は画像では未確認です。
・1st(暫定): ベトナム国土・翼・赤星(?-1961年)

▲第1観測群チャン・フック・ロック上士
北ベトナムへの潜入作戦に参加し、1961年7月2日に戦死したロック上士の写真で、着用例が確認できます。
詳細は『初代(暫定)LLÐBベレー章』をご覧ください。
・2nd: 空挺部隊(1961-1963?)

▲第1観測群/第77群司令ファム・バン・フー [フートーの第77郡本部にて。1961年]
第1観測群が第77群に改名された1961年になると、第77群では空挺部隊と同じパラシュートに翼の意匠のベレー章が見られます。
またこの時期はベレー色も赤なので、1963年に地理開拓局がLLĐBへと再編され新たなベレーが採用されるまで、地理開拓局のコマンド部隊(第77群・第31群)では色・徽章ともに空挺部隊と同じベレーを着用していたことになります。
・3rd: 星・落下傘・稲穂(1963-1964?)

上の黒ベレーと同じく、1963年3月に地理開拓局がLLĐBへと改編された際に導入されたと思われる、LLĐBとして最初の部隊徽章です。
この徽章はLLĐBのシンボルとして、特殊部隊キャンプの正門にあしらわれている例もあります。
ただしこちらも黒ベレーと同じく、クーデター後の1964年後半には廃止されます。(ただし一部で引き続き着用例あり)

▲カントー特殊部隊キャンプ[1963年]
・4th: 丸形/落下傘と翼(1964?-1975)

ジェム政権/タン大佐期のベレー廃止に伴い、1964年頃に新たに導入されたのが丸形のベレー章です。
こちらは暗緑色ベレーと共に、以後終戦まで長きに渡って着用されました。

また、刺繍のデザイン自体は丸形と同じものの、土台が空挺部隊のようにチューリップ型になっている物も存在しており、こちらは導入初期の短い期間のみ用いられた模様です。
まとめ

1964年はLLĐBの組織が切り替わる時期なので、ベレーも色・徽章ともに新旧入り混じっておりカオスです。
特に4thの丸形ベレー章の導入は濃緑色ベレーよりも早かったらしく、当時の写真やコレクター所有品では、旧式の赤や黒のベレーに新型の丸型ベレー章を付けている例(おそらく全て1964年中)がいくつか見られます。

▲Wade Krawczyk氏コレクション

▲Chuon Chuon Xanh氏コレクション
ちなみに先日の記事『黒ベレー』に載せたこちらのレプリカベレーは、タン大佐期に導入され、1963年の仏教徒危機においてLLĐBが国内の寺院などを襲撃した際に着用していた、LLĐBの歴史の中でも一番評判が悪い時期の組み合わせになります。

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