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2021年09月11日

調査中のベトナム軍インシグニア ②徒手格闘技能章

こちらは射撃技能章とは逆に、当時の使用例は幾つもあるのに、徽章本体の鮮明な画像がなかなか見つからなかった物です。
以前こちらの記事で、ベトナム軍にはテコンドー章(Bằng Taekwondo)なる徽章が存在していた事を書きましたが、その時はまだ画像が不鮮明なため、多分中央の白い図柄は拳(グーパンチ)だろうという事くらいしか分かりませんでした。

調査中のベトナム軍インシグニア ②徒手格闘技能章


しかしその後、もうちょっと鮮明な当時の画像が見つかりました。
ハー・コック・フイ少尉という人物の写真です。

調査中のベトナム軍インシグニア ②徒手格闘技能章
▲第10政治戦大隊 ハー・コック・フイ少尉(左)とズー・トゥー・レ大尉(右) 1973年

画像を拡大すると、今まで読めなかった拳の下の文字がついに読めたのですが・・・
これがまた新たな謎を呼んでくれました。

調査中のベトナム軍インシグニア ②徒手格闘技能章
▲拡大画像(左)と再現図(右)

えー!『KARATE DO(空手道)』って書いてあるじゃん!テコンドー章じゃなかったの!?

しかし空手道と書かれている事自体は、着用者のバックグラウンドと辻褄があっています。
実は写真のフイ少尉は、日本人の鈴木長治が1963年にベトナムのフエで旗揚げしたSuzucho Karatedo(鈴長空手道)に最初に入門した一番弟子の一人であり、当時既にベトナム格闘技界の第一人者として活躍していた、南ベトナムでは著名な空手家なのです。

調査中のベトナム軍インシグニア ②徒手格闘技能章
▲若き日のハー・コック・フイ(左)と鈴木長治(右)

ちなみにベトナム戦争終結後、鈴木長治氏はベトナム共産党政権による外国人追放政策によって、1978年に日本に帰国。
軍人だったフイ氏は逮捕され、再教育キャンプへ投獄されたものの、数年後に脱獄、国外脱出に成功。難民として1979年に米国へ渡りました。フイ氏は渡米後も武道家として活躍し、HANSHI KARATE(師範空手) 9段、Shorin Ryu Karate (小林流空手) 8段、Okinawan Traditional Weapons(沖縄古武術)7段、米国国際武道協会専任理事会議長などを歴任。『グランドマスター』として今なおベトナム人武道家から尊敬を集めています。


さて、話を本題に戻します。
なぜ、『テコンドー章』と呼ばれている徽章に『KARATE DO』という文字が入っているのか?
その答えとして、二つの可能性を考えてみました。

①徒手格闘は何でもKARATE DOだった/文字はKARATE DOのみのだった説
空手の方がベトナムで先に普及しており認知度が高かったため、同じく打撃系の徒手格闘術であるテコンドーは空手の一種と見做されていた、または徒手格闘の総称としてKARATE DOが用いられていた?

[考察]
当時テコンドーでは空手や柔道と同じ日本式の道着が使われており、実際、欧米ではテコンドーは空手の一流派と見做されるなど、長らく空手と混同されていた。
しかし、ベトナム軍にテコンドーを指導しているのは韓国軍の指導員(軍事顧問)であり、自国のテコンドーを日本のカラテ呼ばわりされる事には強い抵抗があったことは想像に難くない。
また当時ベトナムでは、テコンドーは"Taekwondo"の他にも、韓国国旗の太極の図柄から"Thái cực dào (太極道)"とも呼ばれており、それが韓国由来の武術である事はベトナムでも認知されていたと考えられる。


②実際に習得した格闘技の名前が入る説
入る文字は共通ではなく、他にも"TAEKWON DO(テコンドー)"や"JUDO(柔道)"など、実際に習得した武術の名前が入った?

[考察]
①の考察で述べたように、テコンドーの段位に対してカラテという名称が使われたと考え辛い以上、単に実際に習得した武術の名前が入ると考えた方が自然だと思われる。
今回例に挙げたフイ少尉は鈴長空手道の第一人者であり、KARATE DOの文字が入っている事とは何ら矛盾しない。
ただしKARATE DO以外の文字の使用例はまだ確認できていない。







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この記事へのコメント
いつも楽しく拝見させて頂いております。
この拳の徽章のデザインは韓国軍が使用しているテコンドー徽章に色形サイズとも酷似しています。
また、韓国軍が当時ベトナムでテコンドーのデモンストレーションや指導を行なっていたいくつかの記事があります。
https://m.blog.naver.com/PostView.naver?isHttpsRedirect=true&blogId=vietvetkorea&logNo=50178757663
流派は別としてデザイン自体は韓国軍の影響を受けたもので間違いないと思います。
Posted by カメ at 2021年09月12日 22:24
カメ様
情報ありがとうございます。
今回は文字が判読できたものがたまたま空手でしたが、これはあくまでレアケースであり、ほとんどのベトナム兵が学んだのはテコンドーだったはずなので、やはり韓国軍のテコンドー章の影響を受けている事は間違いなさそうですね。
以前、韓国軍マニアの友人に80年代の韓国軍テコンドー章を見せてもらいましたが、そちらはOD生地で、拳は黒(黄色の縁取り)、そして拳の両脇に白糸で「태권(テコン)」と文字が刺繍されていました。
ベトナム時代の徽章はまだ見たことがないのですが、当時もデザインは同じなんでしょうか?
Posted by 森泉大河森泉大河 at 2021年09月13日 21:32
余計なコメントをいたしまして申し訳ございません。は
韓国軍の教官が南ベトナム軍の兵士にテコンドーを指導している映像がございましたのでご覧ください。
基地の部隊のマーク等に貴殿のブログと同様のデザインが使用されています。
ただし初期のテコンドーは日本の空手の影響が色濃く、型稽古の映像はまんま空手のものです。今より海外で知名度のあったKARATEと表記されてもおかしくありません。
https://whitedragondojang.wordpress.com/2014/12/02/military-taekwondo-stock-footage-from-vietnam-war/
改めてベトナム戦争当時の韓国軍のテコンドー徽章の画像をお送りいたします。
Posted by カメ at 2021年09月14日 22:26
有名なチェミョンシン司令官のwikiです。
左胸に同じ徽章を付けています。
Taekwondoの刺繍は韓国軍では敢えて入れないようです。
拳を正面に向けたデザインは民間のテコンドー団体も頻繁に用います。
逆に日本の民間の空手団体や自衛隊の格闘徽章が全く異なるデザインを用いているのはご存知かと思います。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/蔡命新
Posted by カメ at 2021年09月14日 22:43
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