2024年03月23日
ベトナムとヴェトナム
現在Việt Namという国名を日本語(カタカナ)表記する場合、「ベトナム」と「ヴェトナム」という二種類の表記が見られます。今回はそれらについて蘊蓄を述べます。
まず大前提として、ベトナム語の発音は日本人にとって想像を絶する複雑さと繊細さを持ち、それを日本語で表記すること自体に無理があります。(他の外国語も大体同じですが)
▲ベトナム語を勉強し始めた時に作って、今でも部屋に貼ってある自作の発音まとめ
これを習得しないとベトナム語は文字通りお話にならない。
その上で「ベトナム」と「ヴェトナム」を比べてみると、どうでしょう。
「ベトナム」
ヘボン式ローマ字表記すると「Betonamu」。本来のベトナム語Việt Namの発音とはかなり異なります。
ベトナムは元々漢字文化圏の国であったため、日本でも長らくベトナムの国号を漢字表記していました。
伝統的には「安南」、1945年3月のベトナム帝国建国以降は「越南」です。
そしてその「越南」のカタカナ表記は、1949年発行の本によると「ヴィエット・ナム」であり、まだ「ベトナム」とは書かれていません。
その後、1960年代前半までに漢字表記は廃れて「ベトナム」というカタカナ表記が一般的になる訳ですが、その過程については私はまだちゃんと調べていません。
おそらく国立公文書館や国会図書館で調べれば色々分かると思いますが、そんなに興味あるテーマでもないので・・・
※1945年に国号「越南」が採用された経緯はこちらの記事で詳しく紹介されています。是非ご覧ください。
「ヴェトナム」
日本でも学識のある層の中では、外国語の発音をより正確に表現しようという姿勢から、子音Bが「バ行」、Vが「ヴァ行」と書き分けられる慣習が生まれました。
その一環として、Việt Namの頭文字はVなので、すでに普及していた「ベトナム」という表記の「べ」の部分だけが「ヴェ」に書き替えられた「ヴェトナム」という表記も生まれました。
ただし改善されたのは子音Vについてのみで、ヘボン式ローマ字表記すると「Vetonamu」。
ベトナム語特有の母音については全然表現されていません。
なので発音的には「ベトナム」と「ヴェトナム」どちらも元のベトナム語からはかけ離れたものです。
しいて言えば、僕の耳では「ヴィッ(ト)ナーム」に聞こえます。
もし発音的に正しいと主張したいのであれば、「ヴェトナム」ではなく「ヴィッナーム」と書いた方がぜんぜんマシです。
それでも決して正確ではありませんが。
一方、このブログでは一貫してViệt Namを「ベトナム」と表記していますが、それには理由があります。
それは、歴代のベトナム政府や日本在住ベトナム人団体が「ベトナム」という表記を受け入れ、それを公式な日本語表記に据えているからです。
▲ベトナム共和国政府が出版した日本語図書「南ベトナムにおける「解放戦争」の欺瞞性(1965年)」
▲1964年東京オリンピック開会式におけるベトナム(ベトナム共和国)選手団の行進
▲NPO日本在住ベトナム人協会のベトナム建国記念日記念式典
※近年日本では様々なベトナム人団体が急増していますが、日本在住ベトナム人協会が最も早く設立された歴史ある団体です。
▲在日本ベトナム社会主義共和国大使館
またベトナム側が「ベトナム」を受け入れているので、日本国外務省も「ベトナム」を公式表記としています。
つまり、ベトナム政府・在日ベトナム人・日本政府いずれも公式な表記は「ベトナム」であるとしているので、それに逆らって、わざわざ発音が不正確で中途半端な「ヴェトナム」という言葉を使う理由は僕にはありません。
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